整数の性質の復習から論文内容のご紹介

前置き

先日は教科書・問題集・関連書籍の使い方について解説いたしましたが、今日は私の書いた論文の内容の中で高校数学でも理解することができる公式について詳しくご紹介したいと思います。

論文自体の内容は一概に整数論に収まるものではないのですが、今回紹介する結果は初等整数論と言われる分野の内容になります。つまり、整数の法則、公式ですが、こんな公式があるんだとか、こんな法則が成立するのかぁとか、まだまだ発見されていない面白い公式がたくさんあるのだなとか、こんな公式を自分も発見してみたい!という感想を期待して、、ご紹介したいと思います。

高校数学の復習-整数の性質

せっかくなので高校数学の復習として整数の性質から確認していきましょう。

整数とは、1, 2, 3, 4, 5, ….という自然数に0と-1, -2,-3, …. という負の数を合わせた数のことでした。それでは、ある整数の約数とは何でしょうか?定義を確認することが大切です。

整数nの約数とは、整数nを割り切る整数kのことです。整数nを整数\(k\neq 0\)が割り切るとは、まず、任意の整数の組(n,k)について、

\(n=l\cdot k + r\) 、ただし \(0 \leq r < |k|\)

を満たす商lと余りrが一意に定まる性質を整数は持っていることを前提として、余りが\(r=0\)となる場合のことでした。(この整数の性質を除法の原理などと言います)

任意とは、「どのような~でも」「すべての~で」などという意味です。

一意とは、「ひとつに」「ひとつの組に」などという意味です。

例えば、10の約数は、1, 2, 5, 10がまずあって、定義通りであれば-1, -2, -5, -10も約数となります。けれど普通は負の数は自明であるので正の約数だけを考えることが多く、このページでも以下はそもそも全体集合として整数ではなく自然数(正の整数)を考えて行きたいと思います。

自然数nを自然数kが割り切るとき、\(r=0\)なので上記の式より\(n=l\cdot k\)が成立します。つまり、自然数nを二つの自然数lとkの積で表せることと、自然数nを自然数kが割り切ることは同値となります。

同値とは、二つの命題について一つが真であればもう一つも真であるという関係が両方向に成立する二つの命題の関係のことでした。

さらに、それでは次に「最大公約数」と「互いに素な数」の復習をしましょう。

公約数とは、二つの自然数m, nのそれぞれの約数の中で共通の約数のことでした。

例えば、10の約数は1, 2, 5, 10、15の約数は1, 3, 5, 15なので10と15の公約数は1, 5となります。

最大公約数とは、公約数の中で最も大きな数のことでした。

10と15の最大公約数であれば5となります。最大公約数を記号で\(gcd(10,15)=5\)と書きます。gcdはgreat common divisorの略となります。

互いに素な数とは、二つの自然数の最大公約数が1の場合のことです。

例えば、10と15は最大公約数が5なので互いに素ではありません。一方で、8と15は最大公約数が1なので互いに素な数と言えます。言い換えると、互いに素な数とは、公約数が1以外にない二つの自然数のことを指します。

高校数学と大学数学のグレーゾーン

さて、ここまでが高校数学の整数の性質の復習で、ここからが高校数学と大学数学のグレーゾーンの学習となります。受験勉強においても難関大学を受験する場合には、余力があればグレーゾーンまで理解を進めることは無駄な勉強にはなりません。

約数関数\(\tau(n)\)とは、自然数nの約数の個数を値として返す定義域と値域がともに自然数の関数です。

例えば、\(\tau(10)\)は、10の約数は1, 2, 5, 10なので4個あるので\(\tau(10)=4\)となります。

床関数(あるいはガウス記号)\([n/k]\)とは、自然数nを自然数kで割ったときの商lを表します。

例えば、\([10/3]\)は、10を3で割ると商が3で余りが1となるので\([10/3]=3\)となります。割り切れるときは\([10/2]=5\)のようになります。

オイラーのトーシェント関数\(\phi(n)\)とは、自然数n以下の自然数kでnと互いに素な数であるkの個数を表します。

例えば、\(\phi(10)\)は、10以下の10と互いに素な数が1, 3, 7, 9なので、その個数4となります。つまり、\(\phi(10)=4\)となります。

上記のように自然数を定義域として自然数の性質を表す関数のことを数論的関数と言ったりします。約数関数とトーシェント関数には、各関数の値を1から順番に掲載してくれているウェブページがあります。約数関数はこちら、トーシェント関数はこちらです。

床関数の表も少し書いておきましょう。

[n/k]k=1k=2k=3k=4k=5k=6k=7k=8k=9k=10
n=11
n=221
n=3311
n=44211
n=552111
n=6632111
n=77321111
n=884221111
n=9943211111
n=1010532211111
床関数の表

論文内容のご紹介

それでは、いよいよ論文の内容のご紹介に入ります。今回の論文の中で2~3番目の発見になる法則として次のような整数の性質を考えました。1からnまでの自然数を考えたときに、\((a+b)c \leq n\)を満たす自然数の三つ組\((a,b,c)\)はある種の制限を受けることに気づきました。例えばn=10とすると、10以下のすべての自然数の三つ組\((a,b,c)\)が\((a+b)c \leq 10\)を満たせるのではなく、\((3,1,2)\)は\((3+1)2 \leq 10\)と満たしますが、\((4,2,2)\)は\((4+2)2 = 12 > 10\)と満たしません。

そうすると、どのような\((a,b,c)\)の組が\((a+b)c \leq n\)を満たすのか、そこに何らかの法則性はあるのかという問題を立てることができます。そして、その答えとしてある組合せの法則を見つけることができました。その法則はここで解説するには難しすぎるので割愛しますが、その一つの法則から以下に示す初等整数論の公式がすべて導き出されてきます。整数についてのある種の原理のようで面白くないでしょうか?(押し売りのようですが、、)

さて、その導き出される公式を一つ一つ本当に成り立つのかを見ていきましょう。ちなみに、論文はこちらからダウンロードできます。https://doi.org/10.33774/coe-2024-7z62l-v2

公式1

\(\sum_{k=1}^{n} \tau (k) = \sum_{k=1}^{n} [n/k]\)

n=10で確かめてみましょう。\(\tau (k)\)は1から10まで順番に1, 2, 2, 3, 2, 4, 2, 4, 3, 4です。総和は27となります。左辺は約数の個数の総和です。

一方、右辺は上記の表のn=10の行より10, 5, 3, 2, 2, 1, 1, 1, 1, 1です。総和は27でたしかに成立します。右辺は商の総和です。

したがって、nまでの約数の個数の総和と、nを割った商の総和が等しいと分かりました。この公式は初等整数論で良く知られた基本的な公式です。

公式2

\(\tau (n) = \sum_{k=1}^{n} 1/\varphi(n/gcd(k,n))\)

やはりn=10で確かめてみましょう。左辺の\(\tau (10)\)は約数が1, 2, 5, 10なので、その個数は4です。

右辺は、まず\(gcd(k,10)\)が1から10まで順番に1, 2, 1, 2, 5, 2, 1, 2, 1, 10です。次に、これで10を割るので、10, 5, 10, 5, 2, 5, 10, 5, 10, 1となります。それをトーシェント関数\(\varphi(10/gcd(k,10)\)と入れると、まずトーシェント関数\(\varphi(n)\)は1から10まで順番に1, 1, 2, 2, 4, 2, 6, 4, 6, 4なので、4, 4, 4, 4, 1, 4, 4, 4, 4, 1となります。その逆数なので、1/4, 1/4, 1/4, 1/4, 1, 1/4, 1/4, 1/4, 1/4, 1の総和を取ると、たしかに4になります。

公式3

\(\sum_{d|n} d\cdot \varphi(n/d) = \sum_{k=1}^{n} gcd(k,n)\)

n=10で確かめてみましょう。左辺の\(\sum\)の下の\(d|n\)という記号はnの約数dという意味で、併せて\(\sum_{d|n} \)によってnの約数すべてを代入して和を取るという意味になります。

n=10の約数は1, 2, 5, 10なので、\(1 \cdot \varphi(10/1)\), \(2 \cdot \varphi(10/2)\), \(5 \cdot \varphi(10/5)\), \(10 \cdot \varphi(10/10)\)となります。計算すると\(1 \cdot \varphi(10)\), \(2 \cdot \varphi(5)\), \(5 \cdot \varphi(2)\), \(10 \cdot \varphi(1)\)、さらにトーシェント関数の値を代入すれば\(1 \cdot 4\), \(2 \cdot 4\), \(5 \cdot 1\), \(10 \cdot 1\)、つまり、4, 8, 5, 10となり、総和を取ると27となります。

次に右辺は、先ほど求めた通り\(gcd(k,10)\)が1から10まで順番に1, 2, 1, 2, 5, 2, 1, 2, 1, 10となるので、その総和を取ると確かに27となりました。

なぜ右辺で取ったnまでの最大公約数の総和が左辺の式と等しくなるのか、直観的には理解がなかなか難しく、直観的な別証明も難しくなってくるように思います。

初等整数論の一つの面白さは、ただ自然数を数えていくとなんの規則性もなく1つづつ増えていくだけのように思えるのに、実はたくさんの豊かな法則性が隠されていることにあります。実用面ではこの法則性が暗号理論などに応用されています。インターネットを支えるRSA暗号の基本的な仕組みはトーシェント関数を使った初等整数論の知識で理解できます。

公式4

\(\sum_{d|n} d\cdot \varphi(d) = \sum_{k = 1}^{n} n/gcd(k,n)\)

n=10で確かめてみましょう。左辺は公式3のトーシェント関数の中が異なるだけなので、n=10の約数は1, 2, 5, 10で、\(1 \cdot \varphi(1)\), \(2 \cdot \varphi(2)\), \(5 \cdot \varphi(5)\), \(10 \cdot \varphi(10)\)となります。トーシェント関数の値を代入すれば\(1 \cdot 1\), \(2 \cdot 1\), \(5 \cdot 4\), \(10 \cdot 4\)、つまり、1, 2, 20, 40となり、総和を取ると63となります。

右辺は、何度も出てきている通り\(gcd(k,10)\)が1から10まで順番に1, 2, 1, 2, 5, 2, 1, 2, 1, 10となるので、n=10をこれで割ると10, 5, 10, 5, 2, 5, 10, 5, 10, 1となります。総和を取ると、たしかに63となりました。不思議ですね、、。公式3の右辺を公式4の右辺で割ったような公式5はさらに不思議です。

公式5

\(n =\sum_{d|n} \varphi(d) = \sum_{k = 1}^{n} \varphi(gcd(k,n))/\varphi(n/gcd(k,n))\)

n=10で確かめてみましょう。中辺はn=10の約数は1, 2, 5, 10で、\(\varphi(1)\), \(\varphi(2)\), \(\varphi(5)\), \(\varphi(10)\)となります。トーシェント関数の値を代入すれば\(1\), \(1\), \(4\), \(4\)、総和を取るとたしかに10となります。

この\(n =\sum_{d|n} \varphi(d)\)の部分も初等整数論で良く知られた基本的な公式です。もしかしたら間違っているかもしれませんが、たしかガウスが発見した公式で総和の公式としてだけではなく、初等整数論の基本的な枠組みとして度々現れてくる幾何学のピタゴラスの定理のようなものかもしれません(ちょっと言い過ぎかな)。

右辺は、\(gcd(k,10)\)が1から10まで順番に1, 2, 1, 2, 5, 2, 1, 2, 1, 10となり、n=10をこれで割ると10, 5, 10, 5, 2, 5, 10, 5, 10, 1となります。共にトーシェント関数に代入すると、トーシェント関数\(\varphi(n)\)は1から10まで順番に1, 1, 2, 2, 4, 2, 6, 4, 6, 4なので、分子は1, 1, 1, 1, 4, 1, 1, 1, 1, 4となり、分母は4, 4, 4, 4, 1, 4, 4, 4, 4, 1となり、分数を計算すると、1/4, 1/4, 1/4, 1/4, 4, 1/4, 1/4, 1/4, 1/4, 4なので総和を取るとたしかに10となります。

何だか計算をしていると自然数の中に隠された暗号を明らかにしているような気分になってきます。\(\varphi(gcd(k,n))\)と\(\varphi(n/gcd(k,n))\)で逆数を取ることでその何らかの中心がnとなっているというような直観も働きます。自然数の重心(加重平均)のようなものでもあるのでしょうか?

いかがでしょうか。これらの公式は論文で見つけた一つの組合せの法則から導き出されるだろうと思われる法則、公式たちの中で主要ではあるけれど一部の結果です。思わぬ派生的な法則もまだまだ見つかる余地がたくさんあり興味は尽きません。この記事で整数には多くの不思議な性質が眠っているのだなと少しでも感じて頂けたら幸いです。

数学の分野はもちろん整数だけではありません。とてつもなく広い分野が数学にはあります。そして、その一つ一つの分野に不思議で面白い、重要な自然の真理が隠されています。くわえて、それらの分野は相互につながり合っているのです。一つ理解できるとその次もその次もと理解の連鎖が深まっていきます。ぜひ、一緒に余裕をもって楽しみながら数学の世界を探究してみましょう。

余談-初等という言葉について

余談ですが、初等整数論という言葉に付いた初等という言葉は、数学では少し取り扱い注意な言葉で、単純に「簡単な」という意味ではない場合があります。ある分野が発展していくときに、それまでの当該分野の内容に対して初等と名付けることが多く、その意味では古典であったり、基礎であったりもします。発展よりも計算自体は複雑であったり、技術的で分かりにくかったりすることもあります。

その意味では、芸術と比較すると分かりやすいかもしれません。古典絵画が初等整数論、現代美術が現代整数論という対応です。古典絵画がデッサンがしっかりしていて、現代美術が門外漢には何を描きたいのか一見分からないものもあるように、整数論といっても門外漢からは整数からかなり離れてしまっているように見えるものもあります(怒られます)。短歌といっても百人一首と啄木の違いがあるように、中にはそれくらいの違いはあるかもしれません。

とはいえ、ピカソに絵画論がある以上に数学にはそうなる理屈があるわけです。また、ダビンチや百人一首は尊ばれますが、今の画家や歌人がダビンチ風の絵や百人一首風の短歌をあまり読まない、制作してもあまり評価されにくいという現象がありますが、それも同じく数学に当てはまるかなと思います。数学の場合は応用がありますので、実用に生かされるのは古典くらいがちょうど良いということもあります。

その意味では、仮に本格的に数学を勉強する場合には自分の好きな数学と、その一方で必要とされる数学というものを見極めることも大切になります。自分のやりがいや社会的な評価の兼ね合いでリスクを含めて自分自身で納得できる選択、ポートフォリオを作成するようにと指導されることもあります。