研究成果のご紹介(一般の方向け)

【数学研究のご紹介】

このページでは、三つほど分かりやすく、私の数学研究の事例をご紹介したいと思います。
論文等の一覧はこちら→ORCID:0000-0003-2389-3588にあります。

数学研究の紹介①「組合わせの和公式」:

パスカルの三角形はお知りでしょうか?
上から足算を繰り返すと組合せnCrが計算できます。
とても基本的な図形ですが、かのパスカルが発見しただけあって、確率等多くの数学分野と関係を持ち、とても重要な図形です。

参考ページ:「パスカルの三角形

そこで、疑問に思うのが組合せnCrは掛け算ですが、パスカルの三角形の計算法は足算です。
では、パスカルの三角形の計算方法を数式で表せば、nCrの足し算の公式が得られるのではないでしょうか?
そのように考えて、次のnCrの足し算の公式を見つけました。

\({}_{x+y} \mathrm{C} _x\,=\,\sum_{k_1=0}^x(\sum_{k_2=0}^{k_1}(\,\cdot\cdot\cdot\sum_{k_{y-1}=0}^{k_{y-2}}(\sum_{k_y=0}^{k_{y-1}}(1))\,\cdot\!\cdot\cdot\,))\)

単純で基本的な公式だからこそ様々な分野との関係が考えられます。組み合せ論の公式ですが、この公式は自然数の拡張になっており、組み合わせが自然数の拡張という側面を持つことを教えてくれます。幾何、特に格子点との相性がよく、n次元の格子点数と対応したりもしています。その延長線上でしょうか、超平面配置という現代数学の先端分野と絡めて、東工大の入試問題(学部又は院)の補題として利用されたという話もあります。

(日本応用数理学会にて学会発表)

興味のある方は⇒パスカルの三角形の和公式、組合せと格子点をご覧ください。
まだまだ思わぬ分野との関連が発見できそうなおそらく重要な式だと思います。私は特に数論との関連に興味を持っています。ちなみに、この公式については見知らぬ高校生のノートに書かれた初等的な公式さえ見い出す応用数理学会会長も務められた萩原一郎先生の自由と慧眼の大きさに年月を経て感銘いたします。普通ならば高校生のノートの片隅に消えていたものでしょう。

数学研究の紹介②「フェルマーの最終定理の必要条件」:

数学で最も有名な定理の一つにフェルマーの最終定理というものがあります。
\(x^n+y^n=z^n\)のnが3以上だと整数解(解となる3つの自然数の組)を持たないという定理です。nが1の場合は普通の足し算なので整数解はたくさんありますし、nが2の場合も整数解はたくさんあります(後述します)。なぜnが3以上となると解をまったく取れなくなるのか、、そこが不思議で面白い点です。

参考ページ:「フェルマーの最終定理

この定理は1990年代に現代数学の粋を集めて証明されました。その方法はとても美しい発見に満ちていますがとても複雑です。それまでにも300余年にわたり個別に多くの証明法が提案され、多くの理論の発展も促してきた問題です。

この研究では、これまでの初手とは異なる展開法と必要条件を発見しました。その必要条件は、以下のようなものです。記号を説明すると\(¬\)は否定を表します。\(n | x\)はnがxの約数であることを表します。\(gcd(x,y)\)はxとyの最大公約数を表します。\(\land\)は「かつ」という論理記号です。

\(¬(n | xy)\)の場合は、\(gcd(x, w)^n = x − w \land gcd(y, w)^n = y − w\)、
\(n | x \land ¬(n | y)\)の場合は、\(gcd(x, w)^n / n = x − w \land gcd(y, w)^n = y − w\)が成立する。
ただし、\(w\)は\(w = x + y − z\)、\(n\)は2以上の素数、そして\(x, y, z\)は互いに素な数とします。

\(x^n+y^n=z^n\)のnが2の場合には、よく見るピタゴラスの定理\(x^2+y^2=z^2\)と同じ式で整数解(例:(3,4,5)、(5, 12, 13)、(8, 15, 17)、、)も多くあり、この整数解をピタゴラス数と言います。直角三角形としてもよく見る自然数の三つ組になります。

参考ページ:「ピタゴラス数

上記の必要条件は、この\(n=2\)のピタゴラス数で具体的に確かめることができますので、試しに計算してみてください。さらに、この必要条件は、単純なために直観的には解がありそうに見える\(x^n+y^n=z^n\)ですが、自然数に範囲を限定とすると同値になる数式が実はより複雑な式になり、直観的には整数解があるか疑問を覚える式であることを教えてくれます。

(インドの国際論文誌JPANTAに掲載)

英語ですが興味のある方は⇒A SIMPLE CONDITION OF FERMAT WILES THEOREM MAINLY LED BY COMBINATORICSをご覧ください。内容は初等的な部分も多く、細かく技巧的でユニークな手法を含んでいるため数学者の方でも数日で読めるというものではないと思います。ただ、細かな箇所においても数に対する新しい視点を含んでいるので読み込めば派生的な発見を多く期待できると思います。例えば、次に紹介する研究「自然数の分解(関数構成)」も本論文の復習が一つの契機となっています。

ちなみに、JPANTAは代数・数論の雑誌ですが編集長のProfessor K. K. Azadはファジー理論のご研究があり、インドの哲学的思想を背景とした教授の思想と懐深さが本論文を受け入れてくださった理由ではないかと密かに感じております。この点については、本論文の導入部を読むとご理解いただけると思います。西洋と日本の思想はインドでつながっているのだな、としみじみと感じます。

数学研究の紹介③「自然数の分解(関数構成)」:

自然数、1、2、3、、、は多くの方が慣れ親しんだ数をかぞえるための基本です。この自然数が分解できると聞くとどんなことを思い浮かべますでしょうか?

普通は、高校数学で学ぶ素因数分解のことを想像するかもしれません。素因数分解は、ある数を掛け算でできる限り分解することを意味します。つまり、素数の掛け算になるまで分解します。例えば、\(60=2^2\cdot3\cdot5\)のようにです。

参考ページ:「素因数分解

この研究では、自然数を分解しましたが、その分解という意味は素因数分解とは大きく文脈が異なります。足し算は足し算、掛け算は掛け算と別々の集合に定義をして、これを関数で繋ぎ合わせることで自然数を作れることを証明しました。つまり、自然数の関数構成と呼んでも良いかもしれませんし、掛け算と足し算を明確に分解したということを意味します。

通常、掛け算と足し算を別個に取り出して同じ集合に定義することは環と呼ばれる現代数学の基本概念です。ただ、同じ集合上に定義してしまうので掛け算と足し算の関係がどのように構成されているのか、見通しが悪い側面があります。くわえて、環は自然数というよりは整数を抽象化しており、自然数としては余分な概念(群といいます)が加わってしまっており、それも見通しを悪くしている側面があります。

そこを別個の集合上にきちんと分解して構成することで見通しが良くなり、自然数や他の様々な自然数に類似した構造を調べやすくなる、といったメリットがあります。ただ、その分解法と構成法自体に自然数が抽象的に作れるんだという不思議さと面白い点があります。

ちなみに、抽象的な自然数の構成法としてはペアノの公理というものがあります。この公理の場合には掛け算を定義するのに、掛け算と足し算を対等に扱うのではなく、通常のように足し算から掛け算を定義します。例えば、2×3:=2+2+2=3+3のようにです。その点が掛け算と足し算を分解し切れていない難点となります。

参考:「ペアノの公理

環とペアノの公理と比較すると、この研究における自然数の構成法はその両方の間にある別の見方と言えるものでしょう。特に論文の題名にもなっている「素なるもの」は、ガロアが群を初めて定義したときに、群は「閉じたもの」という単純な定義だったのですが、「素なるもの」はその逆の「閉じていないもの」になっています。

(論文発表)

英語ですが興味のある方は⇒Decomposition of Natural Numbers from Prime Objectsをご覧ください。初めはデカルトやカントールの言うところの形而上学(メタフィジックス)から入ります。いわゆる数学論文という先入観を持たずに読むことをお勧めします。あるいはデカルト等の基礎的な哲学を学んでいると気にならないかと思いますが、そうでない方は導入部分の理解に難しさを感じるかもしれません。

まだまだ、生まれたばかりの見方ですので評価は定まっておりません。ただ、自然数の構造の見通しが良くなるというメリットからは数論上の具体的な成果も出て来ています。例えば、自然数nの約数の個数は次のように求めることができます。

足すとnになるすべての二つの自然数a(\(1 \leq a \leq n\))とbについて最大公約数を取り、各最大公約数についてnを割った数をcとします。その各数cについて1からcまでにあるcと互いに素な数の個数をdとします。そうすると、すべてのdの逆数を足し合わせると自然数nの約数の個数となります。などなどたくさんの数式を導くことができます。数式にすると次のような簡単な式になります。

\(\tau(n)=\sum_{n=a+b}\ 1\ /\ \varphi (\ (a+b)\ /\ gcd(a,b)\ ) \)

具体的な成果について興味をお持ちの方は英語草稿ですがこちら⇒On sums involving divisor function, Euler’s totient function, and floor functionをご覧ください。

数学にはこのような不思議な世界がたくさんあります。上記の説明中で「分解」「分解」と何度も「分解」という言葉を使っているように、この研究の発見の中には当教室で学べるデカルトの「分解」の哲学、研究方法がとてもよく生かされています。

他にも発表、未発表を含めて興味深い発見がたくさんあり、現在も楽しみながら研究を継続中です。自分も研究をしてみたい!という方は、ぜひ一緒に研究を楽しみましょう。ご参考ページ:『教科書をきちんと理解するための読み方、探求の仕方』、『自分の発見をしてみたいという方へ

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