教科書・問題集・関連書籍の使い方、数学の勉強方法について

前置き

今回は数学の勉強においての教科書や問題集、数学関連書籍の使い方についてのお話を少ししたいと思います。

中学生、高校生、大学生、学び直しの社会人など、高校数学を学ぶ環境や目的は多種多様なので一概に一般論を述べることはできません。それぞれの個性にあった独自の勉強方法を模索していくことが一番大切なことであると考えています。

右に行ったり、左に行ったり、時にはつまずきながら進むことで数学だけではなく、自分に合った何かと出会えたら幸運、それが普通のことであり最良のことでもあると思います。

だから、必ずしも数学が得意になるためにどうすればよいか、特に短期的にテストの点数を上げるための方法論のようなものが必要なことももちろんあり、実際に生徒さまにとって必要と思えばよく対策をお勧めしていますが、長期的に良かったかどうかはよく分からない場合もあると感じます。

教科書が一番大切

さて、前置きはこのぐらいにして数学の教科書や問題集、数学関連書籍の使い方で最も大切なことをまず指摘したいと思います。それは、教科書が一番大切ということです。

高校までの数学の勉強では、普通、ドリルや問題集といったものがあります。一方、大学以降の数学の勉強においては、教科書や専門書を読むことはあってもあまり問題集というものはありません。中には演習書のような形態や教科書に問いが付属している場合もありますが、その問いにも答えや詳解がない場合が多くあります。

それは、内容をきちんと理解すれば想定されるような問題は解けるようになることが前提であり、そのような問いは自分であれやこれやと立てて自分で探究することが求められているからです。そのため、あえて問題を設定しなかったり、わざと難問を紛れ込ませたり、解答を付属しなかったりということもあります。

では、問題の答えが分からなかったら前に進めないではないか?と思うかもしれません。たしかに、分からずに前に進む気力を失うこともたくさんあります。けれど、それはそれで進む必要もないじゃないか、道はいくらでもありますし、分からないことをゆっくりと楽しむ、自分の分かる方向へ進むという姿勢も大切になります。

行き止まりを横目に見ながら別の道を歩いていたら、いつの間にかむかし目標にしていた場所に着いていた。いや、むしろより良いルートを見つけていたというようなことも沢山あるのが数学だと思います。

教科書の内容を理解できないのに問題演習を繰り返すことでマニュアル的に解き方に慣れるというようなある種の受験対策のようなことは、大学以降の勉強ではそれが必要な分野や勉強スタイルもありますが、あまり基本とは言えません。

大学受験でも大学院受験でも、あるいは定期試験でも、試験対策となると問題演習による知識の習熟が必ず必要になります。そのため、自分で問題を立てて演習を繰り返すよりも効率的に問題演習を行える問題集がどうしても重宝されます。教科書が読み込めていなければ詳解付きの問題集でないと行き詰ります。

けれど、そのために教科書の理解が進まない間に問題演習に時間を取られてしまうことが多くあります。実際、自分の場合も大学受験の際には問題集を分析して各分野の問題の分類ノートのようなものを自作してみたりしましたが恐らく失敗だったなと感じます(良かった点もあるかもしれません)。

自分の現在時点よりも先の領域や問題を眺めてみることはとても有意義なことです。自分にとって難しい問題をうんうん唸りながら時間をかけて考えることが一番実力を付ける方法です。一方で、大学以降の勉強方法のように、問題集ではなく教科書を重んじる勉強方法は、中高の数学でも基本であると言えます。

教科書を深掘りしながら読む、各分野のつながりを意識しながら読み直す、深堀に応じて関連書籍やWebで調査をする、そうして理解を深めてから問題集に取り組んだ方が問題演習も効率的に進みます。つまずきながら難しい問題演習をするということは、実は教科書の内容を再発見・独自発見しているようなもので、それはそれで有意義ですがとても時間がかかります。難しいとされる問題集でも自分にとって簡単になればスラスラと効率よく進みます。

仮に、再発見・独自発見するにしても教科書を深掘りしながら考え込んだり、重要な定理や難問についてじっくりと考えた方が有意義なことが多いはずです。それは教科書は基礎であり、問題集は応用だからです。教科書の一つの内容は、問題集の一つの内容よりも理解できた時の影響力が何倍にもなるというのが、おおむね多くの場合に正しいのが公理と演繹を持つ数学の理論構造といえます。

些末に見える生きた具体の中にこそ重要な問題と発見があり、それを嗅ぎ取る感性は大切ですが、おおむね他人がひねり出した些末な大量の問題に忙殺されがちなのが勉強というものです。それを避けることが大切で、問題集が分からなければ教科書に戻ることが基本です。

自分にとって難易度が高い問題集があってそれを解けるようになるのが受験等の目的のための必要条件であるならば、学校等のカリキュラムや課題の場合には少しづつでも、自分の自由が効く範囲ならばできる限り、決して無理のない範囲で、急がば回れで教科書や関連書籍で少しづつでも理解を深めることが効率も上げてくれると思います。

数学関連書籍

数学の関連書籍には一般向け教養書、数学者や科学者の随筆的な本、雑誌、古典的名著、専門書、論文など、書籍以外にもウェブ、動画、SNS、各種教育団体開催の教室やイベントなどがあります。中でも一般向け教養書には様々な読者向けの段階に応じた本が出版されており、内容にはピンからキリまでありますが、教科書の深堀りには重宝します。数学者や科学者の随筆的な本には、数学を学ぶ上で必要な多くのヒントが散りばめられています。雑誌には様々な現在の数学分野や数学教育に関する情報も掲載されています。時には、古典的名著を読むことで数学の理解がぐんと深まります。

ウェブページ、ウェブ上の資料、動画も重宝すると思いますし、専門的な内容を学ぶこともできます。ただ、一般的な意味でもウェブページや動画、SNSには、教育上好ましくない広告や時には見えないリスクも付随してしまいますし、内容もさらにピンからキリまであるので見る目が試されます。各種教育団体開催の教室やイベントは素晴らしいものが多いですが、当たり前の話ですが出会いには運もありますし、時期も大切になります。早い方が良い場合も悪い場合もあります。

一つひとつの本、人との出会い、自分の勉強の中での気付き、発見が自分の数学を作り上げて行きます。試験ではあまり、そのような自分の数学の個性といった側面には光が当てられませんが、数学、科学、学問の世界では各個人の持つ好み、感性、個性、創造性が最も大切な価値になります。ぜひ自分の考え方、得意、個性を大切にしてもらいたいと思います。

一人ひとりの無名・有名の人々の個性が陰に陽に数学や科学、現代文明を築き上げてきました。それは音楽や芸術、スポーツ、他の社会活動と何ら異なることがないと思います。時には、そんな広い視野を持って余裕をもって楽しみながら、まずは教科書を基本に探究をしてみましょう。そうすれば確実に数学の実力が付いていきます。