数の万華鏡

解説:

作図方法

円を分割数だけ等分に分割し、各分割点に番号を1から分割数まで番号を振ります。各分割点からその番号iについてスキップ係数×i番目の分割点に直線をひきます。この単純な操作によって描かれた直線だけで上記のような美しい曲線模様が描かれます。

高校数学との関係

直線を動かして模様を描くと言えば、数Ⅱで学ぶ「軌跡と領域」で頻出の領域問題を思い浮かべるかもしれません。その考えは正しく、基本的に上に描かれた数の万華鏡は領域問題の応用になります。応用ですので関係する分野はその他にも多く、数A「整数の性質」、数C「複素数平面」や「式と曲線」、数Ⅲ「微分法の応用」なども仕組みを理解するには必要な知識となります。

例えば、直線の集合から曲線模様が生まれる様子は、領域問題の境界線の一部として受験問題にも頻出します。これは包絡線と言って直線の集合が模様となる曲線の接線となっているからです。

高校数学の勉強の仕方

領域問題は、数Ⅰで学ぶ「関数とグラフ」を理解していれば変数と定数の違いが分かり、数Ⅱ「軌跡と領域」と併せて基本的には解けるようになってきますが、ここが数学の難しくも面白いところで、数Ⅰ「関数とグラフ」の勉強だけで変数と定数の違いまで理解するのはなかなか大変なことです。

そこで少し深掘りして数Ⅰ「集合と命題」で関数を捉え直すと変数と定数の違いの理解が深まり、領域問題も解きやすくなるのですがその先には大学数学の「写像」が見えてきます。

同じように、数C「空間の座標」に入ると領域問題の見通しはさらに良くなりますし、くわえて大学数学の射影(射影幾何学)や包絡線(解析学、微分幾何学)の概念を少し学ぶとあっという間に解答を導く方法も見えてきます。

中学受験で方程式を使うと簡単になるように、高校数学でも基礎をきちんと学び、深掘りして理解する先には大学数学が自然と待っています。文系、理系を問わず、どの数学の範囲でも少し先まで手が届く実力が付いて来ると多くの問題が途端に簡単に感じられるようになります。

著名な数学者が中学受験の問題が解けなかったという逸話もあるように、どんな専門分野とも同じで受験にはその範囲の基礎の習熟(時には暗記)や計算力の養成も大切で、やみくもに大学数学を先取りしたからといって直ちに時間内にすべての問題が解けるというものではありません。ただ、やはり基礎と基礎の深掘り、自分の成長を止めない探究心が伸び悩み防止には効きます。

難関大学の問題を見ると、親切に教科書の基礎(定義や公式、基本問題)をなぞった問題も多く、ただし、時間内に解くには暗記も必要であったり、「発展」や「研究」という項目の内容をきちんと使いこなさないと解けない問題も多く出ています。

例えば、数A「整数の性質」では、上に描かれた数の万華鏡の理解にも必要な「合同式」やさらに、大学範囲の初等整数論の始めに出てくる「オイラーのトーシェント関数」くらいまでの理解も必要な問題が出ています。

数C「空間のベクトル」で言えば発展の「平面の方程式」や「直線の方程式」も知るだけではなく、使いこなせる必要が出てきます。他にも理解していれば都合の良い知識はあふれるようにあります。教科書や問題集(例えばチャート式)のコラムがそのような多様な数学への良い橋渡しになっています。

教科書の基礎をしっかりと理解して、これらの橋渡しを楽しめるくらいの実力が付いて来ると数学の成績はぐんぐんと上がっていきます。高校数学の教科書では発展と書いてあっても、広く深い数学の世界ではそんな偏見は何もなく、発展でも何でもないということに注意が必要なのです。それが自分の成長を止めないコツにもなります。

当教室では、基礎から発展まで各生徒の段階に合わせて、どこまででもさかのぼって復習し、余裕をもって深掘りを楽しみながら学習します。目的や動機、理由を理解しながら数学を学ぶことで、やる気も出て成績も上がっていきます。進学のための試験勉強と探究のバランスはよく生徒さま、親御様と相談して決めています。

数の万華鏡を深く知る

数の万華鏡の模様の一部は直線の包絡線によって浮き出るように描かれています。スキップ係数2で表れ、他の数でも似た形として何度も表れる花びら模様はカージオイド(下図)と呼ばれ、数C「式と曲線」で極座標や媒介変数の応用として学びます。これらは輪転曲線といって、二つの曲線を接してすべることなく回転させたときに各曲線に固定された点がなぞる曲線の一種となります。子供の頃に穴の開いた分度器のような玩具(スピログラフ)で様々な輪転曲線を描いて遊んだ記憶のある方も多いと思います。

カージオイドは工学的にも単一指向性の集音マイクにも使われる形で研究が盛んに行われてきました。単一指向性とはパラボラアンテナの放物線にもみられるような同一方向から入射した光や波のみを集める性質のことです。様々な方向から入射する雑音を除去することができます。

カージオイドの包絡線と輪転曲線の関係はおおむね数A「平面図形」と数Ⅲ「微分法の応用」で解説ができます。ただ、数の万華鏡の複雑な図形となると、数A「整数の性質」や数C「複素数平面」で学ぶようにスキップ係数が分割数の剰余となって、分割数との関係において複雑に変化するためにどうしてそのような図形が表れるのかの証明はなかなか難しそうに見えます。

つまり、これら多様な模様は円(自然数の円等分点)と自然数の約数の相互作用から生じるもので、円と自然数の間に隠された深い関係性を示しているとも言えます。円と自然数の関係については、ライプニッツの公式円分多項式が有名です。また、数Cの教科書にも出てくるレム二スケート曲線はガウスの研究が有名で、その先のアーベルやヤコビも取り組んだ楕円関数論整数論と深い関係があります。

多くの花びら模様が現れるのは植物との何かしらの関係性を想起させます。自然界との関係が深い数列と言えばフィボナッチ数列が有名です。同じ模様が繰り返す様子はフラクタルカオス理論とも関係があるかもしれません。

さらに応用としては数の万華鏡は2次元ですが、関数や設定を少し変えると直線の集合が3次元の曲面をなぞるように見える複雑な図形を描くこともできます。一人の人間が理解できる数学や科学の範囲は一握りですが、人類が知りえて利用している自然の知識もほんの一端と言えます。

プログラミング

上述の数の万華鏡のシミュレーション実験は数C「コンピュータといろいろな曲線」の実践とも言えます。本教室で学べるJavaScriptとそのライブラリp5jsを用いて講師の瀬端隼也が作成しました。Webでの活用方法などを含めて本教室ではプログラミングを学ぶこともできます。

2024年12月15日 公開